大学でコーチングを学ぶ意義とは?【日本大学でのコーチング講座を終えて:ご報告】

大学でコーチングを学ぶ意義とは?

先日、4日間にわたり、日本大学で大学生を対象にコーチング講座を開催しました(受講延べ人数は約1000人)。

コーチング講座といっても、所謂コーチングのスキルを修得してもらう内容ではなくて、コーチングの要素を取り入れた「生きる力」を大学生に少し身につけてもらおうという試みです。激動する社会の荒波の中で生き抜いていくために、身につけるべき大切なこととは何なのでしょうか?

1.なぜ今、大学でコーチングを学ぶ必要があるのか?

昨今の社会問題を概観すると、ニート化、鬱、過労死など、その多くが元を正せば、人間関係(つまるところコミュニケーション)が要因となっています。学歴の有無とはあまり関係のない要因が、社会からの離脱要因となっています。しかしながら、「人間関係力」を身につけるのは、机上の学問では非常に困難です。なぜなら、人間関係力を身につけるには、「生身の人間」との接触によって初めて身につけることができるものだからです。だからこそ、社会に出る前の最後の準備期間である大学時代に、生きる力ともなる「人間関係力」を身につける必要があると言えます。中でも、今回、強調したいポイントは、次の3つです。

(その1)他者との関係性を深める。

他者との関係性を深めるには、まず最初に、自分自身のことをよく理解することが大切です。自分がどのような人間であるか(自分の強み・弱み、価値観、将来の目標など)を多面的に深く知れば知るほど、相手のことも多面的に理解できるようになります。自分のことを多面的に理解するとは、多くの視点で物事を理解するということ。多くの視点を持てれば、相手との違いだけでなく、共通点も発見できます。相手との違いは、気づきや学びの機会へと発展させることができるでしょうし、相手との共通点は、親近感をもたらしてくれることでしょう。

(その2)チームワークを発揮させる。

チームワークとは、その名の通り、「協働作業」です。社会にでれば、どんな組織形態にせよ、協働作業が何らかのかたちで求められます。家庭であってもそうです。お互いが強みを発揮し、弱みを補い合い、快適にチームワークが発揮されると1+1=2ではなく、3、いや、もっとそれ以上の相乗効果が生まれます。逆にチームワークが発揮できないとお互いに足を引っ張り合ったり、相手をけなしたり、トラブルにさえ発展します。チームとは、「避けることができない諸刃の刃」でもあり、だからこそ、効果的にチームワークを発揮させる必要があるのです。

(その3)正解がない中で自分の答えを見つける。

小中高の教育制度では、殆どのケースにおいて、「正解」が存在し、そもそも正解があることに慣らされてきたと言えるでしょう。日本では1+2=?のように一つの正解を求めますが、海外では、?+?=3のように、幾通りもの答えがあることを理解する教育を行っています。社会に出れば、唯一の正しい答えなど何処にも存在しません。つまり、正解のない世界で自分なりに答えを見つけ出していくという力が必要になってきます。それが、本当の「生きる力」にも繋がっていきます。

2.なぜ、コーチングは「3つのポイント」に効果的なのか?

では、なぜ、コーチングは、「3つのポイント」(①他者との関係性を深める、②チームワークを発揮させる、③正解がない中で自分の答えを見つける)に効果を発揮するのでしょうか?

  1. まず、「他者との関係性を深める」ためには、先程お伝えしたとおり、多面的に相手を理解することが大切です。コーチングの礎は、視点の多様性です。相手に対して、一方的な見方ではなく、様々な視点で理解してみる。最初の一歩は、相手に対して好奇心を少しでも持ってみて、趣味やマイブームについて質問してみることから始めるといいでしょう。お互いに慣れてきたら、これまでの生い立ちなど、徐々にプライベート度の高いテーマで話しあってみる(人はお互いに秘密を共有することで距離が近くなったりします)。そうすると、お互いの共通点が見つかり親近感を感じたり、逆に異なる点が見つかって相手から学べる機会が得られることもあります。
       
  2. 次に、「チームワークを発揮させる」には、まずお互いをよく知ることです。ここでもコーチングによる視点の多様化が、お互いに理解を深めあうポイントになります。お互いの特徴、強み、弱み等を知ることで、強みを発揮しやすくなったり、弱みを補い合ったりすることが可能になり、チームワークが発揮されやすくなります。さらに、コーチングで最も大切とされる「承認:相手を価値判断することなく、相手の存在そのものを受け入れるということ」を活用することで、メンバー同士が安心してコミュニケーションを取ることができ、組織学習が加速され、チームの相乗効果も高まります。一人で不可能なことが、チームワークを発揮することで可能となることを実感できるとさらにチームワークが強化されていきます。
         
  3. 「正解がない中で自分の答えを見つける」場合においても、コーチングは応用できます。自分は本当は何を求めているのか?成果を出すために自分が今身につけるべき能力は何か?どうしたら自分は相手や社会の役に立てるだろうか?このような自問を問い続けることによって、自分なりの答えに近づいていきます。セルフコーチングという方法によって、正解がない中で自分の答えを導きだすことは可能です。もちろん、自分では答えが見つからない場合もありますから、その場合には、「誰に聞けば、もしくはどこに行けば、欲しい情報が手に入るだろうか?」という質問で、必要となる情報を収集していきます。情報収集ができたら、自分が求めている答えに役立つ情報は何か?を明確して絞り込んでいくと、自分なりの答えに近づいていくでしょう。

3.社会で生き抜くための「生きる力」が重要(結論)

IT革命によるグローバル化に伴い、情報が洪水のように押し寄せ、世の中のニーズや価値観も多様化していく中で、一体何を信じて生きていけば良いのでしょうか?大学生の立場からすれば、これまではレールに敷かれた学校制度の下でやるべき事をやってくるだけで生きてこれました。ですが、社会に出てからは、この線路を進めば良いという正しいレールはどこにも存在しません。果てしない荒野向かって一人で旅立つことになります。

その荒野の中で倒れずに生き残っていくためには、「人間関係力=生きる力」を身につけることが必要となるでしょう。具体的には、「他者との関係性を深める」、「チームワークを発揮する」、「自分で答えを見つけ出す」、という力が、社会に出てから、大きな助けとなっていきます。

今回、私が実際に大学で新たに発見したことは、こうした「人間関係力」を養う機会が、小中高の教育課程では依然として著しく不足しているということ。20数年前となんら変わらない我が国の教育方針には、日本の将来は本当にこれで大丈夫なのだろうかと正直不安も覚えました。

そんな中、今回の新たな取組みは、多少なりとも、これまでの固定的な学習様式に対して風穴を開ける試みであり、受講した学生の反応などを見る限り、大きな可能性を感じたところです。

 

講義の最終日に、私から学生に贈ったメッセージはこちらです。

「皆さんに最後にお伝えしたいこと」

それは、人との出会いを大切にすること。

出会いを大切にして、人と繋がれる力を養って欲しい。

人間一人でできることは限られる。

困ったら相談できる人になること。

次は、自分が相談される人になること。

そして、お互いに助け合える関係を築くこと。

それが、生きる力に繋がります。

これから4年間の学生生活だけでなく、

社会人になってからも、皆さんのご活躍を心から応援しています。

本当にありがとう。また、どこかでお会いしましょう。」

メッセージを聞いてくれていた学生達の目は輝いていました。

素晴らしい4日間でした。この出会いに心から感謝です。