期待されながらも、重版されなかった初出版
私の処女作、『評価の基準』(日本能率協会マネジメントセンター)は、「組織で評価される人になるためのサバイバル術」について、組織心理学などの視点、及び現場での実体験をもとに書いたものです。
実はこの本が出版される前は、出版社の中ではとても高い評価を頂いていました。当時、私は初の出版ということもあり、業界の事情もあまりよく分かっていませんでしたので、出版社の評価が高いから少なくとも最低1回くらいは重版されるに違いない!と期待していました。
出版社は、私のようなド素人が知らない出版業界の事情に精通している方々ですから、そんな出版社の方々が評価してくださるのであれば、間違いないだろうと勝手に思い込んでいたのです。
事実、出版社は、とても高い広告費を使ってまで宣伝してくださいました(通常はいきなり広告費を投入することはありません。重版がかかって売れ行きが上がってきた時に、売上を加速するために広告を打つのが定石です)。
ですが、残念ながら、重版されませんでした。一般的に、本の重版率は15%前後だと聞いてはいたので、「かなり厳しいものなんだなあ」と認識はしていましたが、「ダメだったのか。。。」というショックはとても大きいものでした。
初出版だったということもあり、出版には9ヶ月間の時間と労力をかけましたので、その努力が報われなかった時の気持ちは一言では言い表せないくらいのものでした。出版関係者の方々のご期待にも沿えず、当時は「もう当分の間は、出版にチャレンジするのはやめよう」と思っていました。
『評価の基準』(日本能率協会マネジメントセンター)のご購入はこちらから。
↓ ↓ ↓
アマゾンで購入する
重版されるための不可欠な要素とは?
重版されるには、いくつかの重要な要素があります。
1.まず最も重要な要素は、「装丁」です。
装丁とは、一言で言うと「本のカバー(表裏)」のことです。装丁はいくつかの部分に分かれますが、大まかに言えば、①「タイトル」、②「サブタイトル」、③「補足情報」、④「デザイン」の4つです。
出版関係者の間では色々な言い方をされていますが、「装丁が7~9割」と言われています。つまり、装丁が良くないと、本の中身が良かったとしても売れる確率がぐっと下がってしまうということです。
これはよく考えれば、誰でも分かることなんですが、本と言うのはまず最初に「手に取ってもらえなければ買われるチャンスすら無くなる」ということです。手に取ってもらえるためには、装丁が魅力的でなければ、手に取ってもらえません。
装丁の魅力度は、上記の4要素(タイトル、サブタイトル、補足情報、デザイン)が上手く組み合わさって決まります。特にタイトルとデザインは決定的に重要です。この二つを外してしまうと、売れる本も売れなくなってしまいます。
2.次に重要な要素は、①「目次」、と②「序章(はじめに)」です。
本を買う人というのは、目次と序章(はじめに)をざっと読んで「面白そう」とか「良さそう」と思ったら、レジに行きます。本をじっくり最後まで立ち読みする人は、殆ど本を買わないと言われています(最後まで読んだら、繰り返し読む価値が本当にあると思わない限り、買う必要はないですよね?)。
だからこそ、目次と序章が極めて重要です。目次と言うは、実は「本のコンセプト」を表しています。本の全体像ですよね。目次を見れば、具体的にどんなことが書いてあるのかを一目で確認できるのです。
次に目次をどう魅力的に見せるか?が鍵となりますが、単に各章のタイトルを並べればいいというものではありません。目次にも工夫がいるのです。読者が思わず読みたくなるような、ひきつけられる目次にする必要があります。
そして、序章(はじめに)です。ここは、読者の関心を引き付ける上でとても重要なパートになります。序章を読んで「つまらなさそう」と思われたら、手に取られた本は、元の場所に置かれます。読者が思わず引き込まれる序章であれば、本章への期待度がぐっと高まって、「買って読んでみよう!」という気になるのです。
3.3つ目に重要な要素は、「プロフィール」です。
意外に知られていませんが、プロフィールは重要です。この本を書くに相応しい著者なのかどうかは、本を買う人にとっては重要なチェックポイントだからです。何でこの人がこんな本を書いてるんだ?と思われたら、本に対する信頼性、あるいは信憑性が失われてしまいます。
また、プロフィールが魅力的であることで、「この人が書く本であれば、きっと面白い内容に違いない」と読者の期待値を上げる効果もあります。
そもそもプロフィールが魅力的でなけば、商業出版を実現することはできません。その意味では出版される際にはプロフィールは合格ラインとなっているはずなのですが、書く本のコンセプトによって著者のプロフィールを少し変えたりするなどの工夫も必要です。
ちなみに、本の中身(本文)がしっかりしていることは言うまでもありません。
じゃあ、何をもって「しっかりとしている」と言えるのか?ですが、実は明確に定義することは非常に困難です。
よくベストセラーなんかでも、「読むに値しない」とか「内容が空っぽ」といった辛辣なコメントがあったりしますが、売れれば必ずアンチな読者は出てきますので、それは気にしなくてOK。売れている本は、アンチな読者以上に高い評価を読者ファンから得られていますので。
とは言え、私なりに「しっかりとしている」本の中身についてお伝えすると、ビジネス書の場合、いくつかのポイントがあると思います。
一つは、「読みやすさ」です。これは、私がお世話になった敏腕編集者の方がおっしゃっていたことですが、「スラスラと引っかからないで最後まで読めるか」です。読んでいる途中で「ん?」と詰まってしまうと読者は本を閉じてしまいます。
次に、「ロジカルであるかどうか?」です。ビジネス書は小説とは異なりますから、論理的矛盾があるようでは、内容の信頼性が損なわれてします。読んでいて、矛盾が感じられないかどうかは、最低限クリアすべきポイントと言えるでしょう。
三つ目は、「客観性があるかどうか?」です。著者が何らかの意見や主張をする場合、それが客観的事実や証拠にある程度裏付けられているか、は大切なポイントになります。この辺りは、テクニック的な部分にもなりますが、要するに読者が納得できるレベルの客観性が必要です。
他にも、押さえるべきポイントはいくつもありますが、本の中身を良くする上で、この3つのポイントは最低限クリアすべきことであると私は認識しています。
リアル書店での売れ行きが全て!アマゾンは無視していい?
よく「アマゾンランキング1位!」とか宣伝している人達がいますが、アマゾンランキングは1時間ごとのランキングで表示されるので、意図的にランキングを上げることは簡単です。一定の時間帯に集中して大量に購入すれば、ランキング上位を取ることは誰にでも可能です。
たしかに物凄い勢いで売れていく本は、アマゾンランキングも継続的に上位である場合が多いのですが、実は出版社が重版を判断する際、アマゾンランキングはほとんど参考にしていません。著者ならだれもが一度は出してみたい某超有名出版社の編集者が話してくれましたが、
「アマゾンでの売れ行きがいかに好調でも重版の判断材料にはならない」
ということでした。
では出版社はどの数字を見ているのか?というと一般の人には見ることができない「POS」という売上情報システムです。POSはPoint of Salesの略ですが、出版社は全国の書店でタイムリーに計上される書籍の売上データを見て、重版の判断を下しています。
なぜ、リアル書店での売上データをもとに重版の決定を下しているかというと、オンラインでの書籍売り上げは全体の3割前後で、依然としてリアル書店が主たるマーケットであるからというのが大きな理由だそうです。
私自身は、首都の郊外に住んでいることもあって、アマゾンで本を注文することが大半なのですが、マクロ的に見るとリアル書店で本を買う人が7割以上ということで、いかにリアル書店で売れているかどうかが重版の決定要因である、ということです。
重版されるために著者ができること
重版されるための重要な要素はお伝えしたとおりですが、著者としてできることは、「本のコンセプトと中身(序章含む)をいかに充実させられるか?」ということに尽きるかなと思います。
そのためには、元となる「企画書の完成度」が最初の入口にはなるのですが、企画書=本のコンセプトなので、あとはそのコンセプトに合わせて、いかに本の内容を充実させていくかに注力することになります。
実は、重版の大きな要因となる本のタイトルやデザインについては、著者の意向では何ともなりません。出版社によって多少の傾向はありますが、この2つの決定要因を決めるのは、著者ではなく、あくまで出版社なのです。
「これはやめてほしい!」思えるようなタイトルやデザインだとしたら、勿論、意見することはできますが、最終決定権は出版社にありますので、ここは出版社を信じて任せるしかありません。丁寧な出版社さんですと、タイトルについて意見を聞かせてほしいと聞いてきてくれます。
出版とは、チームワークです。
著者一人で出版できるものでは全くありません。編集者の方、デザイン担当の方、営業担当の方、マーケティング担当の方など、一冊の本を出版するのに多くの方々が懸命に関わってくれています。
著者の中には、そんなことも知らずに、わがまま放題、横柄な態度を取るような人もいるようですが、出版はチームワークだということを知っていれば、誠実に謙虚にベストを尽くすべきだと、私は思っています。
発売直後の2週間が勝負!
数カ月、あるいは半年、1年と時間をかけて、1冊の本が世に送り出されます。
晴れて無事、本が出版されて「やったー!!」と喜んでいるのも束の間。重版されなければ、出版社にとっては確実に赤字。著者にとっても重版されなけば、次の出版のチャンスが減っていく(もしくはサヨウナラ)ので、当然緊張するわけです。
著者としては、あれだけの時間と労力を振り絞って書いた作品ですから、重版になってほしいと思うのは当たり前のことです。出版社としても、これだけ時間とコストをかけて、この本を世に送り出す決断をしたのだから、ヒットしてほしい!と当然思います。
なので、発売直後の2週間は正直、ソワソワしてしまうものです。なぜ2週間かと言えば、最初の2週間で書店での売れ行きが悪ければ、早々に別の新刊と入れ替えになってしまうからです。
年間の書籍発行数はここ数年70,000部程度で、1日平均だと毎日200冊もの新刊が世に送り出されていることになります。書店は当然、売上を上げるために売れそうな本を一番良い場所に置いて、長く売り続けたいと思っています。
それゆえ、売れない本はさっさと次の可能性のある新刊と入れ替えてしまうのです。そうしないとどんどん不良在庫を抱えることになります。その最初の見極め期間が2週間程度と言われているのです。早いところだと、1週間でどんどん入れ替わります。
最初の1~2週間で本の運命が決まってしまうなんて、著者からしたら末恐ろしい話です。
でもそれが厳しい現実です。それぐらい本のライフサイクルは早いのです。だからこそ、最初の1~2週間は勝負の時です。
書店では厳しい競争が繰り広げられていまして、新刊が出た際にどの場所に展開してもらえるかが非常に重要で、出版社同士が水面下で激しい場所取り合戦を行っています。書店の中の一等地に展開してもらえるかどうかでその後の売れ行きが大きく左右されてしまうからです。
一方、書店の立場からすれば、本が売れなければ商売になりませんので、これは良い本だ(売れそうだ)という本を一等地に置くようにします。
このような力学が働くので、新刊であっても、一等地で展開してもらえるのは極わずかです。もし、最初から一等地で展開してもらったとしたら、出版社さんの願いと書店の期待度が一致したということになりますから、物凄く有利なポジションに立てたと言うことなります。
とは言え、最初に一等地に展開してもらえなくても、売れ行きが上がれば、一等地に展開してもらえることはよくあります。
実は私の2作目の『聞く力こそが最強の武器である』(フォレスト出版)も、最初は一等地ではなかったのですが、売れ出すようになって1か月経ったころに一等地で展開されたことがありました。
なので、諦めずに出版プロモーションをできるだけ展開していくことが大切です。
私自身、重版される秘訣について色々調べたり、出版社の知り合いの方や編集者さんにもお聞きしましたが、今回私がお伝えしたような共通点はあるものの、結局のところ、「答えは市場(読者)しか知らない」ということです。
シンプルですが、売れたら正解、売れなければ不正解、ということです。
出版社、編集者、著者の力を合わせても、重版されないことの方が多いのが事実です。それでもなお、一人でも多くの読者に届くようにベストを尽くす。やれるだけのことはやり尽くす姿勢がとても大切なのです。
第2作は発売1週間で重版!再チャレンジまでの秘話
第1作目の『評価の基準』が空振りに終わって、「もう当面の間、本は書かない!」と決め込んでいた私でしたが、8か月ほど経ったある日、見知らぬ編集者の方からメールで連絡がありました。
実は1ヶ月ほどメールを開けずに放置していました。当時、企画出版という形で出版を持ちかけるエセ出版社から連絡が何回かあって、折半で出版しませんか?としつこく連絡が来ていたので、また同じなんだろう、と無視していたのです。
そんな状況だったので、そのメールを疑っていたのですが、もしかすると、ちゃんとした編集者の方なのかもしれないと思い、メールを開いてみることに。そうしたら、なんとその方は、数百万部のヒットメーカーの敏腕編集者さんでした(驚!!)。
なんでそんな方が、私に声をわざわざかけてくださったのか?最初は不思議でなりませんでした。初版は重版しませんでしたので、もう可能性はないだろうなあと思っていた矢先でしたから、ちょっとびっくりでしたね。
ただ、初版のトラウマがあって、どんなに頑張っても重版しないのではないか?(重版率15%)との思いが脳裏を駆け巡り、お声をかけていただいても、実は素直に喜べませんでした。
とは言え、自分はプロコーチでもあるので、「可能性にかける!」というスタンスは崩さずに、まずはその編集者さんと会って話を聞くことにしたのです。
その編集者さんは、なんと私と同郷の同じ滋賀県人!これは奇遇とだなと思い、ある種の運命的なものを感じました。そして、私の素直な思いを伝えたところ、それをしっかりと受け取ってくださったので、私はこの人となら本を書いてもいいなと、再び思えるようになったのです。
その編集者さんは、私に大まかな企画のアイデアを話され、私も色々と考えをお伝えしながら、最終的に2作目のコンセプトが固まりました。それがスマッシュヒットとなり、発売1週間で重版、2020年5月時点で8刷り3万8千部となった『聞く力こそが最強の武器である』(フォレスト出版)です。
重版した時は、本当に飛び上がるくらい嬉しかったですね。
なにせ1作目のトラウマがあったので、そのぶん、重版した喜びは最高でした。敏腕編集者さん、出版社さん、そして温かく見守ってくれた家族、天国から見守ってくれている妹には感謝の気持ちしかありませんでした。
同じ失敗を繰り返さないように、編集者さんと何度も相談を重ねながら、本を作り上げていったのも功を奏したと思います。
『聞く力こそが最強の武器である』(フォレスト出版)のご購入はこちらから。
↓ ↓ ↓
アマゾンで購入する
第3作目への挑戦!
第2作目が2万部を超えた頃、敏腕編集者さんからまたお声をかけて頂き、第3作目の出版に向けて執筆がスタートしました。
第2作目の『聞く力こそが最強の武器である』では、あらゆる人々に向けて、「聞く力」の大切さをお伝えするというコンセプトで書いたのですが、今回の第3作では、ターゲットをリーダーに絞り、リーダー向けの「聞く力」について書くという企画になったのです。
聞く力については、第2作でかなり伝えたいことを書いたので、ターゲットは違えど、同じ「聞く力」でもう一冊本が書けるのか?と最初は思いましたが、書き始めてみると意外と書けました。
とは言いつつも、産みの苦しみと楽しみの両方は存分に味わいましたが(笑)。
本を書く時って、本当に山登りみたいです。最初の書き始めは、山の麓にいる時と同じで、「今からあの頂上まで行くの?マジで?」というような心境になるのです。
だいたい5章ぐらいですが、各章が6~7つぐらいのテーマに分かれているので、トータル30~35ぐらいのテーマについて一つづつ書いていくのです。最初の第1章の書き出しが一番難しいのですが、ここを乗り越えると2合目。
3合目から山の中腹に至る6合目くらいまでが、次の山ですが、ここを乗り切ると先が見えてくるので精神的に楽になってきます。そして、やっとの思いで原稿を提出すると8合目となります。
頂上の10合目までの残り2合は、校正の段階です。それ以外にも出版プロモーションの戦略を立てたりするので、残りの2合はラストスパートの重要な道のりです。
そして10合目に到着すると、いよいよ出版となるわけです。
そして今度は、出版後のプロモーションという別の山を登ることになります。酸欠にならないように出版後もエネルギーと余力を蓄えておく必要があるのです。
ここまで来るのにスムーズにいっても最低半年はかかります。なので、出版は本当に大変です。重版される可能性も15%。かなり厳しい数字です。労力も時間も半端なくかかります。その努力が報われるかもわかりません。
じゃなんでそこまでして本を出版するのか?
それは、「そこに読者がいるから」です。
第1作目は重版にはなりませんでしたが、それでも多くの方々から身に余るような素晴らしいご感想を頂きました。
第2作では、相当な数のご感想を頂き、動画コメントまでして下さる方もいました。また、東洋経済オンライン、新R25、ライフハッカーなど、メジャーなメディアにも取り上げられ、多くの反響を頂きました。
出版の素晴らしさとその影響力を身に染みて体験することができました。このような自分でも少しは世の中の役に立てているんだと実感することができたのです。
今回の新作、第3作目となる『聞く力こそがリーダーの武器である』(フォレスト出版)もそんな思いで書いています。
どこかで知らない人が、この本を読んでくださり、そして何か役に立つものを手にされていく。
そこでまた新しい輪が広がっていきます。
たとえ直接、顔を合わすことができなくても、本を通じて、心と心を通わせることができるのです。